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最高裁判所第二小法廷 平成7年(行ツ)84号 判決

福岡県大牟田市大字歴木三〇一番地

上告人

酒見明善

右訴訟代理人弁護士

永尾廣久

中野和信

福岡県大牟田市不知火町一丁目三番地一六

被上告人

大牟田税務署長 城嘉志男

右指定代理人

渡辺富雄

右当事者間の福岡高等裁判所平成五年(行コ)第一九号所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成七年二月一五日言い渡した判決に対し、上告人から一部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人永尾廣久、同中野和信の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 根岸重治 裁判官 大西勝也 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

(平成七年(行ツ)第八四号 上告人 酒見明善)

上告代理人永尾廣久、同中野和信の上告理由

第一点 控訴判決には審理不尽・採証法則適用誤りの違法があり、破棄されるべきである(民訴法第三九四条)。

一、原判決(以下、控訴判決をさす)は、「蓮尾工務店に対する建築代金を当初商売上の資金から支払っていたが、その後不足したため前記借入金を借り入れたことが認められる」と判示したが、これはまったく採証法則にも反する根拠のない独断であって、まったく事実に反するものである。

二、上告人は、当時、毎月一億円以上のお金の出し入れ(売上と支払い)をしていた。

上告人は一五日の支払い(キグナス石油等の主要仕入先への支払い)、二〇日の支払い、二五日の支払いというように区分した事業の運営をしていた。

本件借入金(四〇〇〇万円)は、まさに右一五日の支払いのためであることが借入日(五月一五日)自体から明らかであるのに、原判決はその点を何らの根拠もなく看過している。

三、原判決は居宅建築代金の支払いを「当初商売上の資金から支払っていた」旨認定するが、これも根拠がない。

当初の居宅建築代金の支払いは、

〈1〉 一九七七年一〇月三日 四五〇万〇、〇〇〇円

〈2〉 同年一二月二九日 六六万八、〇〇〇円

〈3〉 一九七八年二月四日 二、〇〇〇万〇、〇〇〇円

であるが、最後の二、〇〇〇万円を除いて、当座預金からの支払いとなっている。しかし、「当座払い」であるから上告人の商売上の資金からの支払いであると断定する根拠はまったくないのである。

四、しかも、原判決は「その後(商売上の資金が―引用者)不足したため」と判示するが、これにはもっと根拠がない。

なぜなら、第一に、商売上の資金について上告人は絶えず(日常的に)銀行から借金していたのであって、居宅建築資金の支払いとは関係なく終始、借入金が存在していたからである。つまり、単純に借入金が存在するから上告人の経営が苦しかったとか、家計が逼迫していたかのように思い込むのは誤りなのである。これは、サラリーマンには理解しがたいところかもしれないが、高額の売上額を誇っているところでも、高額の借入金が常時存在しても何ら不思議ではないのである。

第二に、居宅建築資金の支払いのために四、〇〇〇万円を借金したというのにも無理がある。なぜなら、五月一五日に四、〇〇〇万円借入したそのお金を居宅建築代金としてその期日のころに支払ったという事実がないからである。

上告人が居宅建築代金として支払ったのは、翌月の六月一日の一、〇〇〇万円のみである。四、〇〇〇万円もの大金を借金して二週間後に一、〇〇〇万円のみ支払ったという事実関係にあるとき、二週間後の一、〇〇〇万円の支払いのために四、〇〇〇万円を借り入れしたなどという論理には、どうしても無理がある。

五、さらに、原判決は「右借入前に事業資金として借り入れられていた資金が一時的に家屋建築資金に流用されていたものと推認すべき」と認定したが、その根拠はまったく示されていない。

原判決の右認定が正当であるためには、少くとも次の事項が全面的に明らかにされるべきであろう。

すなわち、一九七七年一〇月から一九七九年一月まで(居宅建築代金支払いの始期から終期まで)の間の、上告人に関する銀行関係(肥後銀行大牟田支店のみならず)の借入および返済状況と、上告人の収支状況(被上告人は上告人に対する取引先への反面調査によって、十分に掌握していたはずのものである)が具体的に明らかにされておくべきだった。

しかしながら、控訴裁判所は何らその点を解明しないまま判決したのであった。つまり、これだけでも控訴裁判所に審理不尽の違法があることが明らかである。

六、原判決は、結局のところ、「本件借入金が実質的に事業資金に使用されたと認めることはできず、実際には全額家屋建築資金に使用されたというべきである」と認定したが、結局、これも誤った結論である。

これはいかにも無理な根拠のない推論を前提として、こじつけた結論というほかはない。

第一に、四、〇〇〇万円の金額が居宅建築資金に使用されたという直接の具体的な根拠はまったくないということを改めて指摘する必要がある。

本件借入より半年以上も前の四五〇万円の支払いがなぜ本件四、〇〇〇万円の借入金と関係があると認定できるのか、まったく不可解であり不合理そのものである。

同じことは借入半年後の六〇〇万円の手形決済についても言える。

五月一五日の借入の前後にある五月一日の二、〇〇〇万円の手形決済および六月一日の一、〇〇〇万円の当座支払いと、本件借入金とが関連づけられるのであればまだ理解しうるところである。しかし、原判決の認定はその許容範囲をはるかに逸脱してしまっている。

これは明らかに採証法則の適用の誤りでもあるというべきである。

第二点 原判決には審理不尽、理由不備ならびに採証法則適用の誤りの違法がある(民訴法第三九条)。

一、原判決は「上告人が一九八一年六月ころ入院したため、被上告人担当職員は、控訴人の事業を手伝っていた上告人の長男を介して上告人に対し同年四月以降の帳簿類の提示をたびたび求めたが、上告人は一九八二年三月ころには自分で税務申告をすることができる状態になっていたにもかかわらず、調査に応じられる状況ではないとしてこれを拒否したこと」と認定するが、これは根拠のない誤った認定である。

二、被上告人が上告に対して帳簿類の提示を真摯に要求したという事実はないし、そのような証拠もない。

また、上告人が一九八二年三月以降に調査を拒否したという事実もない。

これらの原判決は、まったく根拠のないものであって、審理不尽・理由不備であると同時に採証法則適用の誤りでもあって、破棄されるべきものである。

以上

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